オウンドメディアを運用しているのに、記事数やPVは増えているのに、なぜか企業名の指名検索が伸びない。そんな違和感を抱えていませんか。SEOに沿って真面目にコンテンツを作っているのに成果が実感できない状況は、多くの運用責任者が直面しています。
その背景には、生成AIの普及による検索行動の変化や、ゼロクリック検索の常態化など、従来のSEO前提が通用しなくなっている現実があります。もはやオウンドメディアは、単なる集客装置として設計するだけではブランドを育てられません。
本記事では、なぜ指名検索が増えないのかという構造的な原因をひもときながら、AI時代においてオウンドメディアが果たすべき新しい役割を整理します。VEOやソートリーダーシップ、従業員アドボカシー、コミュニティ戦略といった最新の考え方や国内外の事例を踏まえ、ブランドを中長期で成長させるための実践的なヒントを提供します。オウンドメディアの価値を根本から見直したい方にとって、次の一手が見えてくるはずです。
なぜ指名検索が増えないのかという根本的な問題
オウンドメディアを継続的に運営しているにもかかわらず指名検索が増えない最大の理由は、施策の問題ではなく前提となる発想そのものが時代遅れになっている点にあります。多くの企業は「良質な記事を増やせば、自然とブランドが想起される」という因果関係を信じ続けてきました。しかし2025年現在、その前提はすでに崩れています。
背景にあるのが、検索行動そのものの変質です。GoogleのSGEやChatGPT、Perplexityの普及により、ユーザーは検索結果をクリックせず、SERPやAIの回答画面で意思決定を完結させるようになりました。Gartnerは、2028年までにブランドのオーガニック検索トラフィックが50%以上減少すると予測しています。これはコンテンツ需要の減少ではなく、「クリックして読む」という行為が不要になったことを意味します。
この環境下で指名検索が増えないという現象は、単なるKPI未達ではありません。ブランドがユーザーの記憶領域に存在していないことを示す危険信号です。人は課題に直面した瞬間、無数の選択肢を検討するのではなく、頭に浮かんだ数社だけを比較します。マーケティング理論でいうEvoked Setに入れなければ、検索される以前に選択肢から外れてしまいます。
| 視点 | 従来の発想 | 現在起きている現実 |
|---|---|---|
| 検索行動 | 検索→クリック→比較 | 検索・質問→AI回答で完結 |
| コンテンツ価値 | 網羅性・正確性 | 誰が語っているか |
| 成果指標 | PV・順位 | 想起・信頼・指名 |
それでも多くのオウンドメディアがPVを追い続けた結果、深刻な副作用が生まれました。それが情報のコモディティ化です。検索ボリュームの大きいキーワードを狙い、競合と同じ構成、同じ結論の記事を量産する。ナイル株式会社の分析でも、指名検索が増えない要因としてテクニカルな課題以上に「意図しないページが評価され、ブランドと結びついていない」ケースが多いと指摘されています。
ユーザーは記事を読んで「役に立った」と感じても、その情報源がどの企業だったかを覚えていません。結果として再訪も指名検索も起きず、検索エンジンだけが評価主体となる構造から抜け出せなくなります。これはオウンドメディアが「集客装置」に固定化され、ブランド形成という本来の役割を果たしていない状態です。
- 検索エンジン向けに最適化され、人の記憶に残らない
- 正解をまとめているが、独自の視点がない
- 誰が書いても成立する内容になっている
さらにB2Bでは、構造的な見落としが存在します。EdelmanとLinkedInの共同研究によれば、今すぐ購買を検討している層は市場全体のわずか5%に過ぎず、残り95%は情報収集すらしていない状態です。従来のSEO中心のオウンドメディアは、この5%の顕在層だけを奪い合ってきました。
しかし指名検索は、検索していない95%の期間にどれだけ記憶を蓄積できたかで決まります。課題を自覚していない段階でブランドの視点や思想に触れていなければ、いざ検討フェーズに入ったときに検索されることはありません。指名検索が増えない根本原因は、記事数やSEO技術ではなく、記憶と信頼を育てる設計が欠落していた点にあるのです。
ゼロクリック検索と生成AIがオウンドメディアに与える影響

ゼロクリック検索と生成AIの普及は、オウンドメディアの存在意義そのものを揺さぶっています。GoogleのSGEやChatGPT、PerplexityのようなAI回答エンジンにより、ユーザーは検索結果ページ上で要点を把握できるようになり、Webサイトを訪問せずに意思決定を進める行動が一般化しています。
Gartnerの予測によれば、**2028年までにブランドのオーガニック検索トラフィックは50%以上減少する**とされています。これはSEOが無意味になるという話ではなく、クリックを前提とした価値交換モデルが崩れつつあることを示しています。情報は読まれずとも、理解・引用・学習される時代に入ったと言えます。
この変化は、オウンドメディアに二重の影響を与えます。一つはトラフィックの減少、もう一つは評価軸の変化です。生成AIは記事の構成や網羅性だけでなく、**誰が、どの文脈で語っているか**を重視して情報を要約・推薦します。
| 観点 | 従来の検索 | ゼロクリック・生成AI時代 |
|---|---|---|
| ユーザー行動 | 記事をクリックして比較検討 | SERPやAI回答で即時理解 |
| 評価対象 | キーワード一致・被リンク | 文脈の一貫性・専門性 |
| メディア価値 | PV・順位 | 引用される知見・信頼性 |
特に重要なのが、AIがオウンドメディアを「学習データ」として扱う点です。EdelmanやLinkedInのB2B調査が示す通り、意思決定者は直接訪問しなくとも、**AIの要約や第三者の解説を通じてブランド認知を形成**しています。つまり、クリックされなくても影響は及んでいるのです。
一方で、表層的な網羅記事や他社と差別化のない解説は、AIにとっても代替可能な情報として扱われます。その結果、要約の中からブランド名が抜け落ち、「無名の一般論」として消費されてしまいます。
オウンドメディアは今後、検索流入を集める装置ではなく、生成AIが参照・推薦したくなる一次情報源であることが求められます。独自データ、現場知見、専門家の見解など、要約されても価値が失われない情報こそが、ゼロクリック環境下でブランドを前進させます。
生成AIとゼロクリック検索は脅威であると同時に、**真に信頼されるメディアだけが浮かび上がる選別装置**でもあります。この現実を正しく理解することが、次の打ち手を考える前提条件となります。
PV至上主義が招いたコンテンツのコモディティ化
PV至上主義がもたらした最大の弊害は、オウンドメディアにおけるコンテンツの急速なコモディティ化です。検索順位と流入数を最重要KPIに据える運用では、どうしても検索ボリュームの大きいキーワードに最適化された「正解集」の量産に陥ります。
結果として生まれるのは、競合と構成も主張もほぼ同じ記事群です。ユーザーは課題を解決できても、**「どの企業の記事を読んだか」を記憶しません**。この状態では、PVが積み上がってもブランド資産は一切蓄積されず、指名検索も増えないという構造的な問題が発生します。
実際、ナイル株式会社のSEO知見でも、指名検索が伸びない企業の多くは「狙うべきキーワード以前に、誰のどんな視点なのかが不明瞭」だと指摘されています。テクニカルなSEOの巧拙ではなく、内容の均質化そのものが課題になっているのです。
| 観点 | PV至上主義コンテンツ | ブランド資産型コンテンツ |
|---|---|---|
| 主目的 | 検索流入の最大化 | 記憶・信頼の獲得 |
| 内容 | 網羅的・平均的 | 独自視点・一次情報 |
| 読後印象 | 役立ったが印象は薄い | 考え方ごと記憶に残る |
特に問題なのは、PV至上主義が編集判断を歪める点です。検索ニーズが明確なテーマほど評価されやすいため、運営側は「まだ顕在化していない問い」や「業界の前提を疑う論点」を避けがちになります。
しかし、EdelmanとLinkedInによるB2B調査では、意思決定者の多くが「新しい視点や問題提起に触れたこと」をきっかけに、当初想定していなかった企業を検討対象に加えたと報告されています。**PVが読者の思考を揺さぶることは稀ですが、インサイトは記憶を残します**。
- 検索順位を優先するあまり、誰の意見なのかが消えている
- 安全な一般論だけが増え、思想や立場が見えない
- 結果として「また読みたい理由」が生まれない
さらに、生成AIの普及はこのコモディティ化を加速させています。網羅的で平均的な説明は、AIが最も得意とする領域です。つまり、PV至上主義で作られた記事ほど、AI要約や回答に代替されやすく、クリックされない存在になりつつあります。
Gartnerが示すオーガニック検索トラフィック減少予測は、単なるアルゴリズム変化の話ではありません。**「差別化できない情報は、もはや流通すらしない」**という市場からの警告です。
PVを追い続けた結果、コンテンツは増えたがブランドが育たなかった。この矛盾を直視しない限り、オウンドメディアは永遠に消耗戦から抜け出せません。今求められているのは、読まれるかどうか以前に、覚えられるか、語られるかという視点への転換です。
B2B市場における95%の潜在層と指名検索の関係

B2B市場では、購買行動に入っている企業はごく一部に過ぎないという事実が、指名検索の本質を理解するうえで重要です。LinkedInとEdelmanの共同研究によれば、ある時点で積極的に製品・サービスを検討しているインマーケット層は全体の約5%にとどまり、残りの95%はアウトオブマーケット層に属しています。この95%は今すぐ検索行動を起こさないため、従来型のSEOでは可視化されにくい存在です。
| バイヤーの状態 | 割合 | 検索行動の特徴 | 指名検索との関係 |
|---|---|---|---|
| インマーケット | 約5% | 比較・価格・導入条件を検索 | 既に候補にある企業名を検索 |
| アウトオブマーケット | 約95% | 検索頻度が低く、課題も未定義 | 将来の指名検索の母集団 |
多くのオウンドメディアが成果を出せない背景には、この95%を無意識のうちに切り捨ててきた構造があります。一般キーワードでの上位表示は、今すぐ客である5%の奪い合いを意味します。一方で、指名検索は購買直前に突然生まれるものではなく、アウトオブマーケット期の記憶蓄積の結果として発生します。
心理学やマーケティングの分野では、ブランドが想起される集合をEvoked Setと呼びます。Edelmanのレポートでも、アウトオブマーケット層に対して継続的に有益な視点を提供した企業ほど、後の検討フェーズで第一想起に入りやすいことが示されています。つまり、指名検索とは「検索施策の成果」ではなく「長期的な認知投資の指標」なのです。
95%の潜在層は今は検索しませんが、何も覚えていないわけではありません。業界理解を助けた企業、考え方に共感した企業の名前は、無意識下に保存されています。
例えばSaaS領域では、「◯◯ 比較」ではなく、「なぜ今その業務プロセス自体を見直す必要があるのか」といった視座を提示する記事が、直接的なCVを生まなくても後の指名検索に寄与します。LinkedIn B2B Instituteはこれをメンタル・アベイラビリティの形成と呼び、短期KPIでは測れないが売上に直結すると指摘しています。
- アウトオブマーケット層は情報収集ではなく理解形成の段階にいる
- 理解形成に貢献したブランドが、検討開始時に指名検索される
指名検索が増えないと悩むオウンドメディアの多くは、検索需要のある5%だけを見ています。しかし本質的には、検索されない95%の頭の中にどれだけ自社の名前と意味を残せているかこそが、将来の指名検索数を決定します。B2Bにおける指名検索は、刈り取りではなく、長期の種まきの成果として理解する必要があります。
SEOからVEOへ移行する意味と考え方
SEOからVEOへの移行とは、検索エンジンに評価されるための最適化から、AIに「意味として理解・記憶・推薦される存在」になるための最適化へと重心を移すことを意味します。従来のSEOは、特定のキーワードで上位表示されることをゴールに設計されてきましたが、生成AIや回答エンジンが普及した現在、その前提自体が揺らいでいます。
GoogleのSGEやChatGPT、PerplexityのようなAIは、Webページを単純にランキング表示するのではなく、複数の情報源を統合し「もっとも妥当な答え」を生成します。このとき重要になるのが、キーワード一致ではなく、文脈・概念・関係性です。VEOは、このAIの情報理解構造に合わせて、自社やオウンドメディアを意味的に最適化する考え方です。
具体的には、AIはコンテンツをベクトルと呼ばれる数値の集合に変換し、概念同士の距離で関連性を判断します。つまり、「業務効率化」「人事DX」「法改正対応」といった抽象概念と、企業名やメディア名がどれだけ近い意味空間に存在しているかが、AI推薦の可否を左右します。
| 観点 | SEO | VEO |
|---|---|---|
| 最適化対象 | 検索エンジンのアルゴリズム | AIの意味理解・文脈把握 |
| 評価軸 | キーワード一致、被リンク | 概念の一貫性、意味的関連性 |
| ゴール | 検索順位・流入数 | AI推薦・第一想起・指名 |
Gartnerは、今後数年でオーガニック検索トラフィックが大幅に減少すると予測していますが、これは「情報探索が消える」のではなく、「探索の主体が人からAIに移る」ことを示唆しています。VEOとは、この変化を前提に、AIの知識ネットワークの中で自社がどう位置づけられるかを設計する行為だと言えます。
重要なのは、単発の記事最適化ではなく、継続的かつ一貫したメッセージによる意味の蓄積です。あるテーマについて繰り返し深い洞察を発信し、異なる切り口や具体事例、現場の知見を重ねることで、「この分野といえばこのブランド」という連想がAIにも人間にも形成されます。
EdelmanとLinkedInによるB2Bソートリーダーシップ研究でも、継続的に一貫した視点を提示する企業ほど、意思決定者の記憶に残りやすく、将来の購買検討時に想起されやすいことが示されています。これはVEOが単なる技術論ではなく、ブランド戦略そのものと直結している証左です。
SEOからVEOへの移行は、「どう検索されるか」から「どう理解され、どう語られるか」への転換です。オウンドメディアは流入を稼ぐ装置ではなく、AIと顧客の認知構造の中に意味の拠点を築くためのメディアへと進化する必要があります。
マルチモーダルでブランド文脈を統一する重要性
マルチモーダルでブランド文脈を統一する重要性は、AI時代のオウンドメディア運営において急速に高まっています。テキスト、画像、動画、音声といった複数のフォーマットが分断されたまま発信されている状態では、ユーザーの記憶にもAIの理解にも残りません。**重要なのは、どの接点に触れても同じ価値観・同じ意味が立ち上がる「文脈の一貫性」**です。
近年の大規模言語モデルは、テキストだけでなく画像や音声も含めて情報をベクトル化し、意味的な近さで概念を結び付けています。GoogleやOpenAIが公開している技術資料でも、マルチモーダル学習は「エンティティ理解の精度を高める基盤」と位置付けられています。つまり、ブログでは理論、動画では実践、音声では思想を語るといった役割分担が、AIにとっては一つのブランド像として統合されて学習されるのです。
| 接点 | 主な役割 | ブランド文脈への寄与 |
|---|---|---|
| テキスト記事 | 論理・背景説明 | 専門性と一貫した主張を記憶させる |
| 動画 | 視覚的理解・証拠 | 信頼性と具体性を補強する |
| 音声 | 人格・価値観 | 人間味と思想を伝える |
例えばB2BのSaaS企業が「業務効率化」を軸にする場合、記事ごと・媒体ごとに表現がぶれてしまうと、「便利そうだが印象に残らない存在」になりがちです。一方で、どの媒体でも同じ課題意識、同じ言葉遣い、同じ問題提起を繰り返すことで、ユーザーの中に意味の塊として定着します。これは心理学で知られるザイアンス効果とも親和性が高く、**接触回数ではなく文脈の一致が好意形成を左右する**とされています。
- フォーマットごとに役割を分けつつ、主張は一本化する
- ビジュアルや語彙を統一し、想起のトリガーを揃える
EdelmanやLinkedIn B2B Instituteの調査でも、複数チャネルで一貫したメッセージに触れたバイヤーは、単一チャネル接触のバイヤーよりも信頼度が有意に高いと報告されています。これは人間だけでなく、AIにとっても同様です。断片的な情報ではなく、**豊かな文脈を持つエンティティとしてブランドを認識させること**が、指名検索やAIからの推奨につながる土台となります。
マルチモーダルでのブランド文脈統一とは、単なる制作手法の話ではありません。企業が何者で、どんな問題意識を持ち、社会にどんな価値を提供したいのかを、あらゆる形式で矛盾なく語り続ける姿勢そのものです。この積み重ねこそが、検索されなくても思い出されるブランドを形づくります。
ソートリーダーシップが指名検索を生む理由
ソートリーダーシップが指名検索を生む最大の理由は、ユーザーの「記憶」と「判断基準」に直接作用する点にあります。単なるノウハウ解説やハウツー記事は、その場の課題解決には役立ちますが、「誰が言っていたか」は残りにくいです。一方で、業界の前提を問い直す洞察や、未来を見通す視座を提示するコンテンツは、発信主体そのものを強く印象づけます。
EdelmanとLinkedInが共同で実施したB2B Thought Leadership Impact Reportによれば、意思決定者の75%が、優れたソートリーダーシップに触れたことで、当初検討していなかった企業やサービスを新たに調査したと回答しています。これは、コンテンツが「検索需要に応える」のではなく、「検索需要そのものを生み出している」ことを示しています。
特に重要なのが、市場の95%を占めるアウトオブマーケット層への影響です。彼らは今すぐ比較検討をしていないため、通常のSEO記事では接点を持ちにくい存在です。しかし、ソートリーダーシップは彼らに対して「現状維持のリスク」や「見落とされがちな構造問題」を提示し、課題を再定義します。その結果、数週間から数か月後に購買フェーズへ移行した際、最初に思い出され、ブランド名で検索される存在になります。
| コンテンツの性質 | 読後のユーザー行動 | 指名検索への影響 |
|---|---|---|
| 一般的なSEO記事 | 課題は解決するが媒体名は記憶に残らない | ほぼ発生しない |
| ソートリーダーシップ | 視点が更新され、発信者を記憶する | 後追いで発生する |
また、ソートリーダーシップは価格や機能を超えた判断軸を提供します。同レポートでは、約60%の意思決定者が「優れたソートリーダーシップを発揮している企業にはプレミアム価格を支払ってもよい」と回答しています。これは、ブランドが単なる選択肢の一つではなく、「この会社の考え方に共感しているから選ぶ」という状態を作り出していることを意味します。
この状態に至ったユーザーは、比較サイトやレビュー記事を横断する前に、まずブランド名を検索します。なぜなら、情報収集の起点が一般キーワードではなく、特定の思想や問題提起を行った主体そのものになるからです。指名検索は、認知の結果ではなく、信頼と共感の結果として自然発生します。
さらに、生成AI時代においては、ソートリーダーシップがAIの推薦ロジックにも影響を与えます。AIは大量の平均的な情報よりも、一貫した主張や独自の文脈を持つ発信主体を「意味のあるエンティティ」として学習します。結果として、人間だけでなくAIに対しても「このテーマといえばこのブランド」という連想が形成され、指名検索やAI経由の指名推薦が強化されていきます。
ソートリーダーシップとは、検索アルゴリズムを攻略する技術ではなく、想起される存在になるための戦略です。その積み重ねが、時間差で確実に指名検索という形で表出し、アルゴリズム変動にも揺るがないブランド資産として蓄積されていきます。
ブランドジャーナリズムによる信頼と想起の獲得
ブランドジャーナリズムは、オウンドメディアを単なる情報発信チャネルから、社会的に信頼されるメディアへと進化させるための重要なアプローチです。最大の特徴は、企業の立場でありながら、あえて「売らない」「煽らない」姿勢を貫き、読者にとって価値ある事実や文脈を丁寧に伝える点にあります。
この姿勢がなぜ指名検索や想起につながるのか。その鍵は「情報源としての信頼」にあります。EdelmanとLinkedInによるB2Bソートリーダーシップ調査では、意思決定者の多くが、信頼できる洞察を継続的に提供する企業を、将来のパートナー候補として記憶すると回答しています。購買行動以前の段階で、ブランド名が記憶に刻まれるのです。
ブランドジャーナリズムでは、企業の成功事例だけでなく、業界課題や失敗、葛藤といった不都合な事実も扱います。これにより、情報の非対称性が解消され、「このメディアは都合の良いことしか書かない」という読者の警戒心が薄れます。結果として、読者は情報そのものだけでなく、発信主体であるブランドを信頼の拠り所として想起するようになります。
国内の代表的な事例として知られるトヨタ自動車の「トヨタイムズ」では、元新聞記者などのプロフェッショナルが編集に関与し、社内外の出来事をニュースとして構成しています。ここで重要なのは、広告的表現を極力排し、編集方針と倫理を明確にしている点です。この編集の一貫性が、メディアとしての信頼残高を積み上げています。
ブランドジャーナリズムが想起を生むメカニズムは、記憶の構造にも合致します。心理学では、人は断片的な情報よりも「物語」や「文脈」を伴った情報の方を長期記憶に保持しやすいとされています。業界の変化や社会課題をストーリーとして報じることで、ブランド名が特定の文脈と強く結びつき、必要な瞬間に思い出されやすくなります。
| 観点 | 従来型オウンドメディア | ブランドジャーナリズム |
|---|---|---|
| 主語 | 自社・自社サービス | 社会・業界・人 |
| 目的 | 理解促進・CV獲得 | 信頼形成・記憶定着 |
| 読者の認識 | 企業コンテンツ | 情報源・メディア |
また、ブランドジャーナリズムはAI時代との親和性も高い手法です。生成AIは、信頼性や文脈の一貫性が高い情報源を学習しやすく、結果として「信頼できるエンティティ」としてブランドを認識します。これは指名検索だけでなく、AIによる推奨や要約文脈でブランド名が想起される土台になります。
重要なのは、短期的な成果を求めすぎないことです。ブランドジャーナリズムは即効性のある施策ではありませんが、継続することで「あのテーマなら、あの会社」という第一想起を確実に育てます。オウンドメディアが信頼されるメディアへと変わった瞬間、指名検索は結果として自然に増えていきます。
従業員アドボカシーと全員広報という選択肢
従業員アドボカシーと全員広報は、オウンドメディア単体では届かなくなったブランドメッセージを、人を介して社会に広げるための現実的な選択肢です。AI時代において企業発信の情報は要約・代替されやすくなりましたが、「誰が語っているか」という文脈は依然として強い影響力を持ちます。
エデルマンの信頼度調査でも、企業広告よりも「従業員の声」や「専門家個人の見解」が信頼されやすいことが示されています。これは、発信者が実在する個人であることで、情報が抽象論ではなく経験知として受け取られるためです。
LayerXが掲げる全員広報は、その象徴的な実践例です。経営陣だけでなく、エンジニアや営業、人事までが自分の言葉で発信することで、企業の輪郭が立体的に伝わります。一社一メディアではなく、一社多視点メディアを実現している点が本質です。
- 個人名義での発信により、情報の信頼性と読了率が高まりやすい
- 職種ごとの視点が加わり、検索では拾えない文脈が蓄積される
- SNSやnoteなど外部プラットフォームを通じ、接触点が分散する
この分散こそが重要です。検索流入が減少する中で、指名検索の前段階となる「想起」をどれだけ作れるかがブランド成長を左右します。従業員発信は、見込み顧客のタイムラインや推薦経路に自然に入り込み、ザイアンス効果をデジタル上で再現します。
| 観点 | 企業公式発信 | 従業員発信 |
|---|---|---|
| 信頼の源泉 | 組織の権威 | 個人の経験と人格 |
| 拡散経路 | 自社チャネル中心 | SNS・コミュニティに分散 |
| 記憶定着 | 情報として消費されやすい | 人と結びつき想起されやすい |
全員広報を成功させる鍵は、統制ではなく支援です。LayerXが実践するように、発信量や完成度を求めすぎず、フィードバックと称賛を循環させる文化が不可欠です。ハーバード・ビジネス・レビューでも、心理的安全性が高い組織ほど知識共有が活発になると指摘されています。
オウンドメディアの役割は、従業員が語るための「知的基盤」を提供することです。社員の記事や投稿が、結果としてブランド名と特定の価値観を結びつけ、AIにも人にも想起されるブランドを形作っていきます。
ユーザーコミュニティがLTVと指名検索を高める仕組み
ユーザーコミュニティは、短期的な集客施策では代替できない形でLTVと指名検索を同時に押し上げる仕組みとして機能します。ポイントは、コミュニティが「情報取得の場」ではなく、**記憶と感情が蓄積される関係性のインフラ**になる点にあります。
SmartHRのユーザーコミュニティ「PARK」は、人事・労務担当者同士が課題や失敗談を共有できる場として設計されています。Edelmanの調査によれば、B2Bにおいて購買意思決定に最も影響を与えるのは広告ではなく、同業者からの信頼できる推奨です。コミュニティ内で生まれる相互扶助や共感は、プロダクトへの愛着を高め、結果として解約率の低下とアップセルの増加につながります。
- 利用頻度が上がり、プロダクトが業務プロセスに深く組み込まれる
- 他社比較よりも「使い続ける理由」が強化される
- 体験談がUGCとして外部に波及する
このUGCの波及こそが、指名検索を生み出すトリガーです。ザイアンス効果の研究で知られる心理学者ロバート・ザイアンスによれば、人は繰り返し接触した対象に好意を抱きやすくなります。コミュニティでのイベント参加、Slackやフォーラムでの会話、オフライン交流といった接触の積み重ねが、ブランド名を「思い出しやすい存在」に変えていきます。
| コミュニティ接点 | LTVへの影響 | 指名検索への影響 |
|---|---|---|
| ユーザー同士の情報交換 | 活用度向上・解約防止 | 専門領域での第一想起化 |
| イベント・勉強会 | ロイヤリティ向上 | 体験共有による検索誘発 |
| UGCの外部発信 | 新規獲得コスト低下 | 口コミ起点の指名検索増加 |
重要なのは、企業が主役になりすぎないことです。LinkedIn B2B Instituteが指摘するように、信頼は「企業の発言」よりも「顧客同士の関係性」から生まれます。運営側は場の安全性と継続性を担保し、成功体験や失敗談が自然に循環する設計に徹する必要があります。
その結果、ユーザーは課題に直面した瞬間、検索窓に一般名詞ではなくブランド名を入力します。**コミュニティはLTVを最大化するだけでなく、将来の指名検索を内側から育てる装置**として機能するのです。
指名検索を育てるためのKPI設計と評価指標の再構築
指名検索を育てるためには、従来のKPI設計をそのまま延長するだけでは不十分です。なぜなら、指名検索は短期的な流入成果ではなく、中長期で蓄積されるブランド記憶の結果として発生する指標だからです。そのため評価軸も、即時性のあるPVやCVではなく、「記憶・想起・再訪」に紐づくKPIへ再構築する必要があります。
まず前提として押さえるべきなのは、指名検索は単独で評価できる指標ではないという点です。Google Search Consoleで確認できる指名クエリ数は重要ですが、それだけを追っても増減理由は見えてきません。GartnerやEdelmanの一連の調査が示す通り、ブランド想起は複数接点の累積効果であり、プロセス指標を分解して設計することが不可欠です。
| 評価レイヤー | 主なKPI | 指名検索との関係性 |
|---|---|---|
| 認知・記憶 | 指名検索数、ブランド名言及数 | 第一想起・想起集合への定着度 |
| 接触品質 | 読了率、再訪問率 | 記憶の深さと想起確率を左右 |
| 関係性 | ニュースレター登録率 | 能動的な関係構築の兆候 |
特に重要なのが「接触品質」を測るKPIです。Edelman-LinkedInのB2Bソートリーダーシップ調査によれば、購買や想起に影響を与えるのは接触回数よりも接触時の知的満足度であるとされています。PVが少なくても、読了率が高く、再訪問されている記事は、指名検索のトリガーになっている可能性が高いと判断できます。
ここで有効なのが、GA4を用いた再訪問率やスクロール深度の活用です。初回接触では指名検索に至らなくても、2回目、3回目の接触を経てブランド名で検索されるケースは多く、指名検索は遅行指標であるという認識が欠かせません。
さらに一段進んだ評価として、「どの記事が指名検索をアシストしたのか」を見る視点も重要です。NY Marketingが提唱するように、MAやCRMと連携し、商談や問い合わせ直前に閲覧されていたコンテンツを分析すると、ブランド信頼を補強した記事が浮かび上がります。これらの記事は直接CVを生まなくても、ブランド資産として再投資すべき対象です。
最後に注意したいのは、KPIを短期評価に引き戻さないことです。指名検索を育てるKPIは、四半期単位ではなく半年から一年単位でのトレンド評価が前提になります。Search Consoleの指名クエリ推移、再訪問ユーザー比率、ニュースレター経由流入の増加などを複合的に見ながら、ブランドが「思い出される存在」になっているかを問い続けることが、AI時代のオウンドメディア評価の本質です。
参考文献
- Edelman:2024 Edelman-LinkedIn B2B Thought Leadership Impact Report
- SEO HACKS(ナイル株式会社):指名検索とは?対策するメリットや方法、普通の検索との違いを解説
- NY Marketing:オウンドメディアで「成果が出ない」を今すぐ抜け出す原因と対策
- note(kumarba):【2025年最新】オウンドメディア・SNS最適化:AI時代を勝ち抜く
- AdverTimes:伝えたいことが見つかれば、それがブランドジャーナリズム
- SmartHR Mag.:SmartHRユーザーコミュニティ「PARK」の新たな指針
