オウンドメディアの重要性は理解されているはずなのに、なぜか社内の稟議が通らない。そんな悩みを抱えていませんか。
実際、多くの企業でオウンドメディアは「コストが高い」「成果が見えにくい」という理由から、企画段階で止まったり、途中で予算を削減されたりしています。しかしこれは、オウンドメディアそのものが不要だからではありません。
問題の本質は、現場が語る価値と、経営層が判断する基準の間にある大きなギャップです。PVや記事本数といった指標は、経営の意思決定には十分ではありません。
本記事では、広告費高騰や脱Cookie、生成AIによる検索行動の変化といった最新環境を踏まえながら、オウンドメディアを「費用」ではなく「投資」として理解してもらうための考え方を整理します。
経営層が納得する数字の示し方と、意思決定を後押しするストーリーの組み立て方を知ることで、オウンドメディアを経営戦略の中核に位置づける視点が身につきます。
なぜオウンドメディアの稟議は通らないのか
オウンドメディアの稟議が通らない最大の理由は、施策そのものの価値ではなく、経営層の意思決定基準と提案内容が噛み合っていない点にあります。多くの担当者は「今やオウンドメディアは重要です」「競合も始めています」と必要性を熱心に訴えますが、それだけでは投資判断の材料として不十分です。経営層、とりわけCFOやCEOが見ているのは、情緒ではなく数字とリスクです。
実際、宣伝会議の調査でも、オウンドメディア運営企業の約8割が「効果を感じている」と回答する一方で、予算縮小や停止を経験した企業は少なくありません。この矛盾は、現場が感じている“手応え”が、経営の言語に翻訳されていないことを示しています。PVやUU、検索順位といった指標は運用改善には有効ですが、経営会議では利益に結びつかない限り評価されにくいのが現実です。
経営層はすべての施策を「コスト」か「投資」かで判断します。広告宣伝費はPL上で即座に利益を圧迫する費用として扱われるため、「いつ回収できるのか」「代替手段はないのか」という問いが必ず投げかけられます。オウンドメディアも、単にブログ運営として説明すると、広告と同列の“消える費用”と見なされてしまいます。
| 現場の説明軸 | 経営層の判断軸 | 生じるギャップ |
|---|---|---|
| PV・検索順位 | 利益・キャッシュフロー | 成果が金額に換算されない |
| 中長期で重要 | 回収期間とリスク | 時間軸が共有されない |
| ブランド向上 | 企業価値・財務指標 | 抽象度が高すぎる |
さらに、オウンドメディアは成果が出るまでに時間がかかる「ストック型施策」です。初年度は制作費や人件費が先行し、売上への直接貢献は限定的になります。この構造を説明せずに稟議を出すと、「初年度赤字=失敗施策」という短絡的な判断を招きやすくなります。Googleの検索品質評価ガイドラインでも示されているように、信頼性の高いコンテンツは蓄積によって評価されますが、その前提が共有されていないケースが多いのです。
もう一つの見落とされがちな要因が、リスク視点の欠如です。経営者は「やることのメリット」以上に「やらないことのリスク」を重視します。広告費高騰やCookie規制、生成AIによる検索行動の変化といった外部環境の変化を踏まえずに提案すると、「今すぐやらなくても困らない」と判断されがちです。結果として、優先順位の低い企画として棚上げされます。
つまり、オウンドメディアの稟議が通らないのは、価値が低いからではありません。価値の示し方が、経営の文脈に合っていないからです。数字と時間軸、そしてリスクを含めた投資の物語として語れない限り、どれほど正しい施策でも承認のテーブルには乗らないのです。
2025年の市場環境が示すオウンドメディアの必然性

2025年の市場環境は、オウンドメディアを「やるかどうか」の議論から、「持たなければ生き残れない」経営判断へと押し上げています。その背景にあるのは、広告、データ、検索体験という三つの前提条件が同時に崩れ始めたという事実です。これは一時的なトレンドではなく、不可逆な構造変化として捉える必要があります。
まず、デジタル広告を支えてきたサードパーティCookieの終焉です。GDPRやCCPAといった国際的な規制強化に加え、Google Chromeによる段階的なCookie廃止が進んだことで、従来のリターゲティング広告や精緻なアトリビューション計測は成立しにくくなっています。パーソルの解説によれば、今後マーケティングの中核となるのは、企業が自ら取得し管理するファーストパーティデータであり、その主要な取得基盤がオウンドメディアです。
次に、生成AIによる検索体験の変化です。GoogleのSGEをはじめとするAI検索の普及により、検索結果画面上で回答が完結するゼロクリック検索が増加しています。PLAN-Bのレポートが示す通り、表層的なまとめ情報はAIに代替されやすく、信頼できる一次情報を持つサイトのみが引用元として価値を持ちます。つまり、オウンドメディアはSEO対策という枠を超え、AIに選ばれる情報源としての地位を確立する装置になりつつあります。
さらに、広告コストの高騰とユーザーの広告回避行動も無視できません。検索広告やSNS広告のCPCは上昇を続け、費用対効果は年々悪化しています。Amazon Adsが指摘するように、特にZ世代は広告を意図的に避け、企業発信であっても「役に立つ情報」や「共感できる文脈」でなければ受け取りません。この行動変容に対し、売り込みを前提としないオウンドメディアは、数少ない有効な接点となります。
| 市場変化 | 従来手法の限界 | オウンドメディアの役割 |
|---|---|---|
| 脱Cookie・規制強化 | 外部データに依存できない | ファーストパーティデータの蓄積基盤 |
| 生成AI検索の普及 | 流入減少・差別化困難 | AIに引用される一次情報源 |
| 広告費高騰と広告忌避 | CPA悪化・信頼低下 | ストック型で信頼を育てる接点 |
これらを総合すると、2025年のオウンドメディアは集客施策の一つではなく、データ取得、ブランド形成、顧客理解を同時に担う中核的な経営資産だと分かります。外部環境が不安定になるほど、自社でコントロール可能なメディアを持つことの価値は相対的に高まります。この必然性を市場ファクトとして理解することが、次の意思決定への出発点になります。
脱Cookie時代におけるファーストパーティデータの価値
サードパーティCookieの廃止が現実のものとなった今、マーケティングの競争軸は「誰がより多くの広告枠を買えるか」から、「誰が質の高いファーストパーティデータを持っているか」へと明確に移行しています。**ファーストパーティデータとは、自社がユーザーから適切な同意を得たうえで直接取得・保有する行動データや属性データ**を指します。このデータは、規制やプラットフォーム仕様変更の影響を受けにくく、長期的に活用できる点で他のデータとは一線を画します。
HiProやパーソルの調査によれば、Cookie規制後も安定した成果を出している企業ほど、メールアドレスや会員情報、閲覧履歴といった自社データの蓄積と活用に注力しています。オウンドメディアは、その中心的な取得チャネルとして機能します。記事閲覧、資料ダウンロード、メルマガ登録といった一連の接点を通じて、**匿名トラフィックを意味のある顧客データへと転換できる点**が最大の価値です。
特に重要なのは、ファーストパーティデータが単なる「リスト」ではなく、顧客理解を深めるための動的な資産であることです。どの記事を読み、どのテーマに長く滞在し、どのタイミングでコンバージョンしたのか。こうした行動データは、広告では把握しづらい検討プロセスや関心の変化を可視化します。Googleが提唱するE-E-A-Tの文脈においても、ユーザー理解に基づくコンテンツ改善は評価の土台になります。
| 観点 | サードパーティデータ | ファーストパーティデータ |
|---|---|---|
| 取得主体 | 外部プラットフォーム | 自社 |
| 規制耐性 | 低い | 高い |
| 活用範囲 | 限定的 | 分析・施策全般 |
また、ファーストパーティデータはLTV最大化にも直結します。SATORIが示すLTVモデルでは、継続期間や購買頻度の改善が利益に大きく寄与しますが、これらは顧客の関心や課題を正確に把握してこそ実現します。**オウンドメディア経由で得たデータを基に、パーソナライズされた情報提供やナーチャリングを行うことで、広告に頼らず関係性を深化させることが可能**になります。
経営視点で見れば、ファーストパーティデータは実質的な無形資産です。他社がアクセスできず、時間とともに価値が増していく点は、ドメインパワーやコンテンツアーカイブと同様です。Amazon Adsのトレンド分析でも、今後の成長企業は「自社データを起点にした顧客体験設計」を重視するとされています。**脱Cookie時代において、オウンドメディアを通じたファーストパーティデータの蓄積こそが、持続的な競争優位を支える基盤**であると言えます。
生成AIとSGEが変えるSEOとオウンドメディアの役割

生成AIの進化とSGEの本格展開によって、SEOの前提条件は大きく書き換えられつつあります。従来のSEOは、検索結果で上位表示され、クリックを獲得することが最終ゴールでした。しかし現在は、**検索結果画面そのものが「答えの提示場所」へと変化**し、ユーザーがサイトを訪れずに意思決定を終えるケースが急増しています。
Googleが推進するSGEでは、複数のWeb情報を統合した生成回答が検索結果上部に表示されます。PLAN-Bの分析によれば、この環境下では一般的な情報整理型コンテンツほどクリック率が低下しやすい傾向が示されています。一方で、AIが回答を生成する際には、依然として信頼できる一次情報や専門的知見を持つサイトが参照元として必要不可欠です。
ここでオウンドメディアの役割は明確に変わります。目的は「流入を集めること」ではなく、**AIに引用・参照される情報源になること**です。つまりSEOは、検索エンジン最適化からAIO、すなわちAI最適化へと重心が移動しています。
| 従来のSEO | 生成AI・SGE時代のSEO |
|---|---|
| 検索順位とクリック数が主指標 | AI回答内での引用・参照が重要指標 |
| 網羅性や文字量が評価軸 | 一次情報・独自データ・実体験が評価軸 |
| 短期的な流入最大化 | 中長期的な信頼性と権威性の蓄積 |
Googleが重視するE-E-A-Tは、生成AI時代においてむしろ重要性を増しています。特に「Experience(経験)」は、AIが模倣しづらい要素です。自社で得た顧客データ、実運用の知見、失敗談や意思決定の背景などを語れるのは、オウンドメディアだけです。
宣伝会議やSATORIの調査でも、オリジナルな調査データや専門家コメントを含むコンテンツは、検索・SNS・外部引用を通じて長期間価値を発揮することが示されています。これはSGE環境下でも変わりません。むしろ、**AIにとっての「信頼できる仕入れ先」になるかどうか**が、企業メディアの生存条件になっています。
重要なのは、生成AIを脅威として捉えるのではなく、レバレッジとして活用する視点です。質の高いオウンドメディアを持つ企業は、検索結果、AIチャット、比較生成回答など複数の接点を通じて、ブランドメッセージを間接的かつ広範に届けられます。SGE時代のSEOとは、順位争いではなく、**信頼のインフラ構築競争**なのです。
広告費高騰とZ世代の広告回避が突きつける現実
デジタル広告への依存が限界に近づいている現実を、最も端的に示しているのが広告費の高騰です。検索広告やSNS広告はオークション制である以上、参入企業が増え続ける限り単価は下がりません。
実際、国内外の広告業界レポートでも、CPCやCPMは中長期的に上昇傾向にあると指摘されています。特にBtoBや専門領域では、1クリック数百円から数千円というケースも珍しくありません。
問題は、広告費が上がっているにもかかわらず、広告の効き目は相対的に下がっている点です。その最大の要因が、Z世代を中心とした広告回避行動の常態化です。
2025年時点で主要な消費・意思決定層に入りつつあるZ世代は、物心ついた頃からデジタル広告に囲まれてきました。その結果、彼らは広告を「情報」ではなく「遮断すべきノイズ」として認識しています。
YouTubeではプレミアム加入による広告非表示、ブラウザでは広告ブロッカーの利用が当たり前になりつつあります。マーケティング関連の調査でも、Z世代は他世代と比べて広告想起率・広告信頼度が低い傾向が示されています。
彼らが信頼するのは広告ではなく、自分にとって意味のある文脈で語られる情報です。友人の口コミ、ユーザー生成コンテンツ、そして売り込み色のない解説やストーリーが判断材料になります。
この変化は、広告クリエイティブを工夫すれば解決するという次元の話ではありません。広告という形式そのものが、Z世代の情報行動と構造的にミスマッチを起こしているのです。
| 観点 | 広告中心モデル | コンテンツ中心モデル |
|---|---|---|
| コスト構造 | 出稿を止めると効果ゼロ | 蓄積により逓減 |
| Z世代の受容 | 回避・無視されやすい | 能動的に読まれやすい |
| 信頼形成 | 短期・限定的 | 継続的に深化 |
広告費高騰とZ世代の広告回避が同時に進行している現在、企業は「より多く出稿する」方向ではなく、「そもそも広告に頼らない接点」を設計する必要に迫られています。
経営視点で見れば、これは単なるマーケティング手法の選択ではありません。広告という変動費が膨張し続ける構造から脱却できるかどうかという、収益モデルそのものの問題です。
広告が届かない世代が主要顧客になる未来において、企業は何を通じて信頼を獲得するのか。この問いに真正面から向き合ったとき、オウンドメディアという選択肢が現実解として浮かび上がってきます。
PVからLTVへ:経営層に届く数字の再定義
オウンドメディアの評価軸をPV中心で語っている限り、経営層との議論は噛み合いません。PVはあくまで途中経過の数字であり、事業価値そのものを示す指標ではないからです。**経営層に届く数字へ変換する鍵が、PVからLTVへの再定義**です。
多くのCFOや経営者は、マーケティング施策を「どれだけ利益に貢献したか」「将来のキャッシュフローにどう影響するか」という視点で見ています。GoogleやAmazonなどの成長企業が重視してきた指標も、短期的なトラフィックではなく顧客生涯価値です。ハーバード・ビジネス・スクールの研究でも、既存顧客の維持率を5%改善すると利益が25〜95%向上する可能性があると示されています。
オウンドメディアは「集客装置」として語られがちですが、本質的な価値は顧客との関係性を長期に育てる点にあります。記事を通じて課題解決を支援し、継続的に接点を持つことで、購買頻度や継続期間が伸び、結果としてLTVが上がります。SATORIの解説によれば、LTVは購買単価・購買頻度・継続期間・粗利率・獲得コストの掛け算と引き算で構成され、オウンドメディアはこの複数要素に同時に作用できる稀有な施策です。
| 視点 | PV評価 | LTV評価 |
|---|---|---|
| 評価期間 | 短期・月次 | 中長期・年単位 |
| 意思決定への影響 | 限定的 | 投資判断に直結 |
| 経営との親和性 | 低い | 非常に高い |
例えば月間10万PVを達成しても、それが一度きりの訪問で終わるなら事業価値は限定的です。一方で、PVは少なくとも継続的に記事を読み、メルマガ登録や再訪を繰り返すユーザーが増えれば、解約率低下やアップセルにつながります。宣伝会議の調査でも、オウンドメディアの効果を感じている企業の多くが、リードの質や既存顧客への影響を評価軸に挙げています。
重要なのは、PVを捨てることではありません。**PVはLTVを構成する最上流の変数として位置づけ直す**ことです。稟議や報告の場では「PVが◯%増えた」ではなく、「PV増加により再訪率が改善し、LTVがいくら伸びる見込みか」という翻訳が求められます。この変換ができた瞬間、オウンドメディアはマーケティング施策から経営資産へと認識が変わります。
広告換算価値・CAC・Jカーブで投資対効果を示す
オウンドメディアの投資対効果を示すうえで、経営層との共通言語となりやすいのが、広告換算価値、CAC、そしてJカーブです。これらは単なるマーケティング指標ではなく、財務的な意思決定に直結する視点を提供します。
まず広告換算価値は、自然検索などで獲得した流入を広告費に置き換えて評価する考え方です。Video BRAINなどの広告業界の整理によれば、CPCやCPMは市場で実際に取引されている価格であり、社内でゼロから定義する数字ではありません。そのため、オウンドメディアの流入数に業界平均CPCを掛け合わせることで、「同等の集客を広告で実現した場合のコスト」を客観的に示せます。
広告換算価値は利益を示す指標ではありませんが、最低限の防衛ラインとして「コスト削減効果」を可視化できる点が重要です。特に広告費高騰が続く環境では、「支出を抑えている」という事実自体が経営判断の材料になります。
| 指標 | 視点 | 経営層への意味 |
|---|---|---|
| 広告換算価値 | 集客コストの代替 | 広告費削減効果の可視化 |
| CAC | 顧客1人あたりの獲得コスト | 事業の採算性評価 |
| Jカーブ | 時間軸での回収構造 | 中長期投資の妥当性 |
次にCACです。SATORIが解説するように、CACはLTVと必ずセットで語られるべき指標です。広告中心の集客では、競合増加に伴いCACは上昇しやすくなります。一方、オウンドメディアはコンテンツが蓄積されることで、同じ記事が何度も顧客獲得に寄与します。その結果、一定期間を過ぎるとCACが構造的に低下するという特徴があります。
この特性を説明する際に欠かせないのがJカーブです。GeoCodeなどの分析でも示されている通り、オウンドメディアは初期に制作費や人件費が先行し、短期的には赤字になります。しかし、検索評価が安定し始めると、追加コストをかけずに流入とリードが増え、累積収益が急激に伸びます。
最初は沈み、途中から一気に浮上する曲線こそがJカーブであり、この形を事前に共有できるかどうかが投資判断を分けます。短期黒字を前提としない正直な説明は、CFOや経営者のリスク認識と一致しやすく、結果として稟議の通過率を高めます。
広告換算価値で現在の価値を守り、CACで事業の健全性を示し、Jカーブで未来の成長を描く。この三点を一貫したストーリーとして提示することが、オウンドメディアを「費用」ではなく「投資」として理解してもらうための最短ルートです。
PLではなくBSで考えるオウンドメディアという資産
オウンドメディアをPLではなくBSで捉える視点は、投資稟議を突破するうえで決定的な転換点になります。PLは単年度の費用対効果を示す表ですが、BSは将来にわたって価値を生み続ける資産の蓄積を示します。オウンドメディアは短期的なコストではなく、長期的なキャッシュフロー創出装置として評価すべき存在です。
一般的に、広告費やコンテンツ制作費は販管費として処理され、その期の利益を圧迫します。しかし、実務の実態を見ると、良質なコンテンツは数年にわたり検索流入や指名検索を生み続けます。GeoCodeや宣伝会議の調査によれば、運用歴が長いオウンドメディアほど自然検索比率が高まり、集客コストが年々逓減する傾向が示されています。これはBS的に見れば、価値が減らないどころか増幅する資産と解釈できます。
この考え方を整理すると、オウンドメディアが内包する資産価値は大きく三つに分解できます。第一に、SEOによる集客基盤です。ドメイン評価や被リンクは、GoogleがE-E-A-Tを重視すると明言している通り、簡単には代替されない競争優位になります。第二に、コンテンツアーカイブです。過去記事が営業担当やカスタマーサポートの役割を半自動で担い、人的コストを抑制します。第三に、ファーストパーティデータです。Cookie規制が進む中、自社で取得した顧客データは、将来のマーケティング自由度を担保する戦略資産になります。
| 資産要素 | BS的な意味合い | 経営へのインパクト |
|---|---|---|
| SEO集客基盤 | 長期的に流入を生む無形資産 | 広告費削減、CAC低下 |
| コンテンツ蓄積 | 再利用可能な知的資本 | 営業・CS工数の圧縮 |
| 顧客データ | 独占的に保有できる情報資産 | LTV向上、戦略柔軟性 |
経営層、とりわけCFOに響くのは、「この施策がBSに何を残すのか」という問いへの明確な答えです。SwitchItMakerが指摘するように、会計上は資産計上できなくとも、将来キャッシュフローを生む能力を説明できれば、それは立派な投資と認識されます。今期の利益を少し削ってでも、来期以降の安定収益基盤を築く判断として語ることが重要です。
実務では、現在の自然検索流入を広告で代替した場合の3年分広告費や、獲得リードの市場単価を用いて「仮想的な資産評価額」を示すと理解が進みます。これは数字の厳密性よりも、経営者の視座をPLからBSへ引き上げる効果があります。オウンドメディアを資産として語れるようになった瞬間、稟議の議論は「削るか否か」から「どう育てるか」へと質的に変わります。
数字だけでは足りない、稟議を動かすストーリー設計
稟議が止まる最大の理由は、数字が足りないからではありません。**数字だけで語られていること自体が問題**であるケースがほとんどです。経営層は合理的に見えて、実際の意思決定では「納得できる未来像」を重視します。オウンドメディア投資においては、KPIやROIを並べるだけでは、その未来像が立ち上がりません。
ハーバード・ビジネス・レビューでも、人は論理で理解し、感情で意思決定する存在だと繰り返し指摘されています。特に不確実性の高い中長期投資では、「この判断が会社をどこへ連れていくのか」という物語がなければ、最終承認には至りません。稟議を動かすストーリーとは、感動的な美談ではなく、経営判断に耐える構造を持ったナラティブです。
重要なのは、オウンドメディアを施策として語らないことです。**経営課題から逆算した必然の選択肢として位置づける**ことで、ストーリーは一気に現実味を帯びます。広告費高騰、Cookie規制、生成AIによる検索体験の変化といった外部環境は、もはや予測ではなく進行中の事実です。その中で「何もしない場合に失うもの」を明確に描くことが、物語の起点になります。
行動経済学のプロスペクト理論が示す通り、人は利益よりも損失を強く回避しようとします。オウンドメディアのストーリー設計でも、「成功すればこれだけ伸びる」より、「やらなければ競合に奪われ続ける」という構図の方が、経営層の判断スイッチを押します。これは煽りではなく、検索結果やSOVの現状を示すことで、冷静に成立するストーリーです。
| 視点 | 数字だけの説明 | ストーリーを伴う説明 |
|---|---|---|
| 投資意義 | PV増加、CPA改善 | 検討初期で選ばれる土俵を失わないための防衛投資 |
| 時間軸 | 単年度のROI | 3年後に広告依存から脱却する成長曲線 |
| 位置づけ | マーケ施策の一つ | 将来キャッシュフローを生む経営インフラ |
さらに強いストーリーになるのが、「人」と「組織」を絡めた視点です。宣伝会議の調査でも、オウンドメディアは売上貢献だけでなく、採用や社内理解の向上といった副次効果が評価されています。**良い人材が集まり、定着し、組織の学習速度が上がる**という物語は、短期KPIでは測れないものの、経営者の関心領域と強く重なります。
また、プラットフォーム依存リスクを織り込むことで、ストーリーは守りの戦略としても成立します。アルゴリズム変更やアカウント停止といった事例は枚挙にいとまがなく、自社でコントロールできない集客に依存する危うさは、経営層ほど肌感覚で理解しています。オウンドメディアは攻めの施策であると同時に、**デジタル時代のBCP**であるという語り方が有効です。
数字はストーリーの信頼性を支える骨格であり、ストーリーは数字に意味を与える血肉です。どちらか一方では稟議は動きません。オウンドメディア投資を語るときは、「なぜ今やるのか」「やらなかった未来はどうなるのか」「それは自社の戦略とどう接続するのか」を一本の線で結び、経営が意思決定しやすい物語として提示することが不可欠です。
成功企業に学ぶオウンドメディア投資の考え方
成功している企業のオウンドメディア投資に共通しているのは、短期の費用対効果ではなく、**中長期で企業価値をどう積み上げるかという視点**で意思決定している点です。彼らはオウンドメディアを「集客施策」ではなく、「経営インフラへの投資」として扱っています。
例えばSmartHRは、立ち上げ初期から売上貢献を強く求めるのではなく、まずは情報発信量と検証サイクルを重視しました。Hatenaによる事例紹介でも語られている通り、短期間で大量のコンテンツを公開し、仮説検証を高速で回すことで、SEO資産と組織的な学習効果の両方を獲得しています。これは**失敗コストを織り込んだ上での計画的投資**と言えます。
また、クラシコム(北欧、暮らしの道具店)の事例では、オウンドメディアを通じて築いた世界観や顧客との関係性が、LTVの向上という形で明確に収益へ結びついています。宣伝会議やSATORIの調査でも、LTVを軸に投資判断を行う企業ほど、オウンドメディアを継続的に成長させている傾向が示されています。
この考え方を整理すると、投資の視点は以下のように分かれます。
| 視点 | 短期施策型 | 成功企業の投資視点 |
|---|---|---|
| 評価基準 | 月次ROI | 3年後のLTV・CAC |
| コスト認識 | 販促費 | 無形資産形成 |
| リスク捉え方 | 成果が出ないこと | 投資しないことによる機会損失 |
特に重要なのが、**投資しないこと自体が最大のリスクになり得る**という認識です。広告費が高騰し、生成AIが検索体験を変える中で、自社でコントロール可能な情報発信基盤を持たないことは、将来の集客・採用・ブランド形成の選択肢を狭めます。Amazon AdsやPLAN-Bの分析でも、一次情報を持つ企業がAI時代における優位性を持つと指摘されています。
成功企業は、この不確実性を理由に投資を止めるのではなく、**不確実だからこそ早く始め、学習コストを先に支払う**という判断をしています。オウンドメディア投資とは、コンテンツ制作費の是非ではなく、未来の競争力をどこで担保するかという経営判断そのものなのです。
経営を巻き込むための稟議書と合意形成のポイント
経営を巻き込むための稟議書で最も重要なのは、資料そのものの完成度よりも、合意形成の設計です。多くの稟議が通らない原因は、内容の良し悪しではなく、経営層が意思決定しやすい状態を作れていない点にあります。**稟議書は「説得資料」ではなく「判断補助ツール」**だと捉えることが出発点です。
まず押さえるべきは、経営層が稟議で見ている評価軸です。宣伝会議やSATORIの調査でも示されている通り、決裁者が最も重視するのは「再現性」「リスク」「撤退判断のしやすさ」です。夢のある成功ストーリーよりも、失敗した場合にどう制御できるかが問われています。
| 経営の関心 | 稟議書で示すべき観点 | 具体的な表現例 |
|---|---|---|
| 投資判断 | 回収見込み | ◯年で広告施策と同等以上のROIに到達 |
| リスク管理 | 下振れ時の対応 | 成果未達の場合は更新頻度を調整 |
| 組織負荷 | 運用体制 | 初年度は外注中心で内製比率を段階的に拡大 |
次に重要なのが、稟議提出前の非公式な合意形成、いわゆる根回しです。Lucyの実務ガイドでも指摘されているように、**事前にCFOや関連部門へ数字の前提条件を共有しておくだけで、承認率は大きく変わります**。会議の場で初めて数字を見せる構図は避けるべきです。
特にCFOに対しては、PVや記事本数ではなく、CACやLTVへの影響だけを簡潔に説明することが有効です。一方、営業責任者には商談化率や提案資料への転用可能性、人事責任者には採用単価削減といった形で、同じ施策でも語り口を変える必要があります。
また、経営を巻き込むうえで効果的なのが、小さな実験結果を稟議書に含めることです。SmartHRの事例でも、初期段階から「仮説→実行→結果」を経営に共有し続けたことが継続投資につながっています。たとえば既存資料を記事化してリードを獲得した実績があれば、それは強力な社内エビデンスになります。
最終的に稟議書で目指すべき状態は、「承認しても反対しても責任が取れる判断材料が揃っている」ことです。**経営を動かすのは熱量ではなく、判断のしやすさ**です。その設計まで含めて稟議だと理解したとき、オウンドメディアは経営テーマとして正式に議論されるようになります。
参考文献
- 株式会社ルーシー(バズ部):オウンドメディアの企画書完全ガイド|400社支援から見えた極意
- HiPro Biz:ファーストパーティデータ活用で生まれる新たな商機とは
- Marketing One:【2025年最新】デジタルマーケティングトレンド15選
- PLAN-B:検索が変わるAI時代にどう挑む?Brand Summit Autumn 2025 登壇レポート
- SATORI:LTV(顧客生涯価値)とは?計算方法や重要性をわかりやすく解説
- 株式会社ジオコード:オウンドメディアとは?構築・運用の流れやメリット・デメリット
- PR TIMES:8割がオウンドメディアの効果を実感するも課題ありという調査結果
